2007年6月28日

自分基準

「ただいまー」 

「ほら、お父さん帰ってきたわよ、ちゃんと自分で話しなさい」

「・・・」

ある夜、帰宅早々何やら不穏な空気・・・嫌な予感

怒っているのか冷めているのか何とも微妙な表情のかみさん
照れ笑いの赤ら顔でやたら目を泳がせている挙動不審の息子

ネクタイを緩めながら先手を打って切り出した

「どうした?お前またナンかやらかしたか?今度は何週間休みだ?また丸坊主か?」

「ち、違うって!そういうことは何にもしてないって」

「これからしようとしてるんだよねー」 間髪入れずに外野からかみさんが茶化す

「・・・あのさぁお父さん・・・ウチって・・・彼女とか泊まりにきちゃいけないの?」

ぎょえー!そっちかい いやいやいや この小僧は いきなりそうきたかい!

「“とか”って何“とか”って・・・ま、まあ、とりあえず座りなさい」 

「さっきから座ってるけど・・・」

即答できず何とか平静を装うも、さすがに少々取り乱してしまった


生意気なことにウチの高3の次男には、もう1年以上前から付き合っている彼女がいて、部活がオフの休日などには、よく我が家に遊びに来たり先方の家に行かしてもらったりする仲です。違う高校の同じ3年生とのことですが、これがなかなか礼儀正しく素敵なお嬢さんで、何が悲しくてウチの息子と付き合っているのか私ら親も理解に苦しむような可愛い彼女なんです。


さてさてそれはともかく、思春期のお子さんをお持ちの皆さん
皆さんのお宅で、もしこんなことがあったらどう対応なさいますか?

『バカヤロー!駄目に決まってんだろうが!高校生の分際で何すっとぼけたこと言ってんだテメエはー!』
私らの時分なら、星一徹ばりの頑固親父が、ちゃぶ台ひっくり返してこう怒鳴りちらかすところですが(知らない方はご勘弁)、どっこい最近はずいぶんと様子が違うようです。

息子の話では、今時は高校生でも親公認で彼氏の家に彼女が泊まるのはそう珍しいことではなく、逆に自宅の方が安心だからと、どこか遊びに行くくらいなら家に連れて来いという親も結構多いと言うのです。
まあ誘惑の多い今の世の中、理屈としては一理あると言えばあるのですが・・・

確かに一月ほど前にも息子の同級生の家に彼女が泊まりに来たという話がありました。その子のお母さんが「どうしよ~」と、ウチのかみさんにメールで相談してきたそうです。同級生の彼は息子とは幼なじみで、スポ小の頃からずっと一緒にサッカーをやってきた間柄で、家族ぐるみで仲良くお付き合いさせていただいている一家です。

数日後、試合の応援でそのオヤジさんに会ったので「何でOKしちゃったのよ?」と尋ねてみると

「それが俺が帰ったときはもう彼女がウチに居てさあ、女房もどうしようか迷ってたみたいだけど、変に駄目だって言うとウチの息子のことだから切れて何するか分からんし・・・とりあえず先方にご心配なくって電話入れてさ、息子にはお前分かってんだろうなって一応釘は刺したんだけどね・・・」という回答でした。

「まあ難しいとこだけど・・・一度認めちゃうと歯止めが利かなくなるんじゃない?」
なんて偉そうに言ってたのが、我が家でも現実のこととなってしまったのです。

おそらく息子は『みんなやってるんだから』という基準で『俺も』と考えたのでしょう。


さて私はと言うと、頭を整理する時間を稼ぐため

(父)「彼女のお母さんも同伴ならいいよ」
(子)「あ、ありえネェ・・」
(母)「そりゃ彼女のお母さんの方が危ないわ」
(父)「言う?息子の前でそこまで言う?」

などと暫くお茶らけモードで軽口をたたいていましたが

「お前彼女のこと本当に大切に思ってる?」改めて親父の顔をして聞きました。

「・・・うん!」ニヤけ顔を止め、背筋を伸ばして息子が答えました。


「だったらやめとけ・・・自分たちが本気で付き合ってることを分かってもらいたいなら、お前がやろうとしてることはお前たち二人にとってマイナスだ。お前の場合、成績優秀でも品行方正でもないけど、サッカーだけは真剣に打ち込んで毎日がんばってるところを、今は彼女も彼女の親御さんも認めてくれてるんだと思う。お父さんがもし相手の親父さんの立場なら、この大事な時期に平気で彼女を泊まらせるような家庭の息子が本気でサッカーやってんのかって思うし、そんな奴もそれを許す親も信用することはできない・・・
人にはそれぞれその人なりの事情や環境とかがあって、みんながやってりゃ誰でも同じように何してもいいってわけじゃない。他の家では認めてくれるのに、どうしてウチは駄目なんだって思うかもしれないけど、重要なのは周りがどうとかじゃなくて、今自分が置かれている立場や果たすべき責任をしっかり自覚したうえで、自分の基準でものごと考えてその善し悪しを判断することだ。そしてその基準は、自分に都合のいいわがままなものにならないように、常に相手の立場を第一に考えることを忘れちゃいけない。
お前もせっかく今までいい付き合いをさせてもらって彼女の親御さんにそれなりに信頼されてるんだから、せめて高校生の間は、そこんとこのけじめはきっちりつけといた方がいいとお父さんは思う。
まあそれで来年まで彼女と今の関係が続いてたら、彼女の親父さんに頭下げて『二人で卒業旅行に行かして下さい』くらいのこと言ってみろ。そのときは『よろしく頼む』って言われるよ、きっと」

「・・・うん・・・そうか・・・そうだね・・・分かった 了解ダー!」

携帯を握り締めて「おやすみー!」と2階に上がっていく息子を見届けて
「ふーっ」と大きくため息をついた私の横に
焼酎のグラスを握り締めたかみさんが座ってニヤッと一言

「ちょっとちょっと・・・自分のこと棚に上げて立派に語るじゃん?」

ヤベッ! ウチも高校時代からの付き合いだった・・・ こいつはすべてを知っている・・・

「君は私の立場を理解して、余計なことは言わないように・・・た、たのむ」