2009年8月30日

リストラ

「お父さん ウチの会社一度に10人位辞めちゃったよ・・・」

ある晩 仕事から帰った息子が遅い夕飯を取りながらポツリと呟いた

「・・・リストラってこと?」

「よく分からないけどたぶんそうだと思う」

「もしそうなら事前に希望退職を募るとかって話があったんじゃないの?」

「いや・・・ボクはそんな話全然聞いてなかったけど・・・」

「そうか・・・じゃ個別に相談したってことかな・・・
まあ不景気が長引いててどこの企業もすごく厳しいから
人を減らしてでも何とか乗り切らなきゃって会社が多いからね・・・
でも人材ってのは本来宝だから 本当はやらない方がいいんだけどな」

「次はボクかもしれないけどね」

「・・・」


昨年春、高校卒業と同時に地元の物流会社に就職した息子は、自分の会社に最近起こっている異変に不安を隠せない様子でした。

彼は現在その会社の工場部門に配属されており、製品のメンテナンスや補充、設置などの業務に当たっています。彼が入社したとき、その工場には管理者、事務職なども含めて総勢30名ほどの社員さんが勤務していたそうです。

昨年の今頃は結構忙しかったようで、息子も土曜、祝日に出勤することも多く、残業もバリバリこなしていたように記憶しています。それが今年の春先から定時で帰る日が多くなり、そして今回、息子曰く社員の年齢や経験に関係なく、お世話になった先輩や仲のいい同僚が多数退職するという事実を眼前にして、無理もありませんが、この先どうなってしまうのだろうと自分のみならず会社の将来も心配になったようでした。

それからというもの、ウチのカミさんもまた「ねえ大丈夫かなぁ・・・あいつは辞めさせられないよねぇ・・・」などと、それこそ泣きそうな表情で焼酎片手に夜な夜な絡んでくる始末・・・まあこれもやむを得ません。何しろ彼女にしてみれば、新聞やテレビで他人事としか見ていなかった“リストラ”という事態がこんな身近な現実となってしまったのですから・・・


“リストラ”とはご存知のように「リストラクチャリング“restructuring”」の日本語版略称ですが、経営学の分野で著名な青山学院大学名誉教授森本三男先生の解説によれば、リストラの広義は、政治、経済、社会全体の根本的再構築を言い、通常は企業が経営環境の変化に適応するために、事業の内容や範囲を大幅に改革し再構成することで、企業再構築などと訳される。有名なところでは、旧ソ連のゴルバチョフ大統領が推進した“ペレストロイカ”がこれにあたり、その英訳が“リストラクチャリング”であると言われています。

さらに企業のリストラは、景気変動、技術革新、過当競争などの環境変化に適応して、自社が生き残るために不断に推進されるべきとされているが、特に不況や業績低下のような苦境下では、それがより厳しく求めらる。具体策としては、企業合併、不採算部門の廃止、事業分野の縮小・整理・撤退・売却、また有望部門・事業分野への経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)の集中投下などが挙げられる。アメリカではM&A(合併・買収)による徹底したリストラを実施することが多いが、日本では終身雇用制など制度上の制約が強く、大胆で徹底したリストラはしにくい、とも説かれています。

その日本ではいつしかリストラ=首切り・解雇・人員整理を意味するようになってしまいました。昨年9月の米国リーマンショック以来その様相は更に加速し、百年に一度の大不況の中、企業としては決して短絡的というわけではないのでしょうが、リストラによって数多くの人々が失職し、再就職できずに食うや食わずの生活を強いられている人が後を絶たない状況であることも事実です。

これに対し国は、そういった企業のリストラによる従業員の失業予防を目的として、景気変動や金融危機などの理由で収益が悪化し、事業の縮小を余儀なくされた場合に、従業員を一時的に休業・教育・出向させる際に支払う休業手当や賃金を助成する「雇用調整助成金」を支給する措置をとっています。

行政、企業、そして雇用者が、この厳しい不況を乗り切るためにそれぞれの立場で懸命にがんばっていると思います。

しかし、顧客のある経営者は「従業員は会社のことなんかちっとも考えてくれない・・・高い給料払ってやっても飲みに連れてっても結局自分のことしか考えないんだよ」と言います。またある経営者は「何とかして従業員の生活を守りたい それが俺の責任だから」と言います。一方である雇用者は「こんなにがんばってるのに給料は安いし会社は俺たちに何もしてくれない」と言います。そしてある雇用者は「こんなときだからこそ自分達の持ってる技術と知識を使って、新しい商品やビジネスモデルを開発したい」と言います。

たとえどんな時代になっても、企業経営は経営者と雇用者の信頼関係の上に成り立つ顧客満足を通した社会貢献であることに変わりはないと思います。いかなる状況であろうとも、組織の一員として、自分がどんな姿勢で仕事を全うするかに尽きるのではないでしょうか。



「あいつは大丈夫だよ」

「えっ? どうして?」

「あいつずっと仕事のアンチョコ作ってるの知ってる?」

「・・・アンチョコって?」

「だから新しく覚えた技術とか知識を書き留めてるってこと!」

「いつからそんなことしてるの?」

「会社に入った時からだよ・・・就職してすぐだったと思うけど
仕事ってのは“お前がいてくれないと困る”って言われるような
会社から必要とされる存在にならなきゃダメだって話をしたんだ
そのためには他の人にはない力を身に付けること
そのためには先ず今やってる仕事を徹底的に覚えること
それで考え付いたのがアンチョコ作りだったんだろうな
子供の頃からやってたサッカーノート様様だ・・・」

「ふ~ん それなりにがんばってんだぁ・・・」

「それなりって・・・まああんまり心配すんな
万が一首切られてもあいつはどこでも食っていけるよ
ちゃんと仕事に向き合ってるから」

「・・・そうだね」