2011年4月30日

おひさま

「おかえり~ 今日も泣けるよ~」

「私はこれから見るのだ 余計なことを言うな」

「それがさぁ 春兄ちゃんがねぇ~ 良いんだよ」

「まだ言うか! それ以上とぼけたことをぬかすと許さんぞ!」

「分かった分かった もう冗談通じないんだから」

「バカもの! この時代 一家の主にそんな冗談など通じぬわ!」

「・・・今は平成 昭和初期じゃあるまいし ドラマと一緒にしないでよ」

「気持ちから入るのが大事なのだ お前にはわかるまい・・・」

「はいはい 好きにしてちょうだい」

NHK朝の連続テレビ小説「おひさま」が始まって早一ヶ月、帰宅して録画しておいた今日の一話を晩酌の肴にじっくり視聴するのが最近の日課になっている。


信州安曇野と松本を舞台に、戦前、戦中、戦後という激動の時代を明るく力強く生きた実在の女性、須藤陽子の半生を描いたドラマ。ヒロイン陽子役には「花より男子」で一躍注目を浴びた井上真央、そして脚本は連続テレビ小説のヒット作「ちゅらさん」シリーズで著名な岡田惠和氏の書き下ろしである。
(詳しくは http://www9.nhk.or.jp/ohisama/)

今年2011年はこの「おひさま」を初め、5月7日に公開される小栗旬・長沢まさみ主演の映画「岳」、同じく8月に公開が決まった櫻井翔・宮崎あおい主演の映画「神様のカルテ」などなど、信州、特に松本周辺の中信地方を舞台とするトップスターキャストのメジャー作品が目白押し。

「今年は信州が大ブレイクするぞー!」と期待を込めたコラム(2010年10月「ブレイク」)を発信していたこともあり、先陣を切って始まった「おひさま」がどんなストーリーかと楽しみにしていたのだが、子ども時代の陽子を演じた八木優希を初めとする子役たちの見事な演技に心を打たれ、しょっぱなからはまってしまったのである。


何より心地よく見ることができるのは、ドラマのロケ地や登場人物の設定が当然ながらよく知る風景であり、とても身近に感じられるからに他ならない。

田中圭演じる長男春樹が通う旧制松本高校(現深志高校)は、国の重要文化財として現存する同校の校舎であった、現「あがたの森文化会館」が使われている。

この会館の敷地でもあり隣接するあがたの森公園は、ウチの子どもたちが幼少の頃、カミさんがほとんど毎日のように連れて遊ばせていた公園で、子どもたちにとっては自分の庭同然の思い出深い場所である。

またヒロイン陽子が通う女学校とは、その昔女子高だった現豊科高校で、現在は安曇野市豊科に位置する共学の普通高校だが、前身の豊科女子高校は私の姉の母校でもある。

そして永山絢斗演じる次男茂樹が通う農学校というのは、豊科高校のほど近くにその校舎を構え、地元の人間なら誰もが知っている、創立90年の歴史ある南安曇農業高校だ。

さらに陽子が親友の真知子、育子と一緒に毎日女学校へ通う町並みは、江戸時代に中山道の宿場町として栄え、現在も昔の景観を町ぐるみで守り続け、一年を通じて多くの観光客が訪れる塩尻市奈良井宿のメインストリートがロケ地となっている。


そんな風情あふれる信州の美しい景観や歴史がドラマを通して全国に向けて紹介されるという満足感もさることながら、私ら夫婦がこのドラマにはまるもう一つの理由は、他ならぬ須藤家の家族構成にあるかもしれない。

母親が早逝するというシチュエーションはウチにはないが(もっとも殺しても死ぬようなたまではないが?)ましてや一人一人の出来の良さもことごとく違うのだが、須藤家の三兄弟がウチと同じ長男、次男、長女という構成だからだろう。

当然、昭和初期という時代背景はあるものの、威厳ある父と真の優しさで子どもに向き合う母という両親の存在、その両親を心から慕い敬う子どもたち、今はそこまで厳格でなくてもいいのだが、その関係性は家族の理想的な姿ではないかと私は思う・・・ そう、現代の親子関係はあまりにフランクというかフレンドリー過ぎるのだ。

そんな親と子の関係、末娘の陽子と二人の兄との思いやりのある関わりがウチの子どもたちとダブってしまい、甚だしい感情移入に我ながら困惑している始末である。

相棒でお馴染み寺脇康文演じる父良一に対する陽子の「はい」という返事が、何とも爽やかで愛らしく、そして羨ましく・・・ 
お前にもこんな返事が出来ないかな~なんて娘の顔を浮かべて思ったり

弟を祖父母の養子に行かせないために、当時中学生の兄春樹が「茂樹は大切な弟なんです!絶対に離しません!」と命がけで祖母に直談判するその姿に・・・ 
お前もここまで身体張って弟や妹を守れるか~なんて長男の顔を浮かべて思ったり

海軍予科練入隊志願を懇願する次男茂樹の父親に対するビシッとした態度に・・・
これがホントに大事な時の姿勢なんだぞ~なんて次男の顔を浮かべて思ったり

ともかく、ドラマの配役に選ばれし優秀な登場人物と比較してはいけないが、ウチの子がこんな状況だったらどうするんだろうなどと自然にダブらせながら見ることができるのは、それはそれで中々楽しいものである。

玄人も素人もなく、視聴率稼ぎのバラエティ番組や流行を追ったトレンディドラマなどが主流となっている現在のTV業界からすると、NHKの連ドラは昔ながらのベタなストーリーと評価されがちなのだろうが、私もそんな歳になったということだろうか、その生活感のある先が分かるベタさが不思議と良く思えてしまう。

東日本大震災で旅行控えが囁かれている今日この頃だが、「おひさま」の中でも映し出される勇壮な北アルプスの峰々、そのスケールの大きな荒々しさと妙にマッチする安曇野の穏やかに澄んだ水と緑。そんな信州の絶景を体感しに、一人でも多くの方が足を運んでいただければと願うばかりである。



「あいつらも こんな子になってくれんかな~」

「まあ手遅れでしょうね~」

「とりあえず言葉使いから叩き直してみるかな」

「とりあえずTV消して正座してご飯食べるようにしたら?」

「そ それは・・・」

「とりあえず諏訪大社のお守りでも買ってきてあげるとか?」

「そ それも・・・」

「とりあえず 父親からってことでしょうね~」

「そ そう・・・なの?」