2011年5月30日

映画 『岳-ガク-』

「そういえばこの前テニスの仲間が観に来たら すぐ近くに60代位のグループがいて
『そりゃありえねぇ~』だの『ありゃ○○岳だな』とか『俺ぁあの山登ったことある』
なんてずっーと喋ってるもんだから 全然映画に集中できなかったんだって」

館内のチケット売場の列に並んで順番を待っていると
カミさんが思い出したように口を開いた

「そりゃ迷惑な話だな~ でも信州人としちゃ 北アルプスを舞台にした山の映画
なんて聞いたら やっぱ一言もの申したくなるマニアも多いだろうからな~」

「今日はどうだろうね?」 

「まあ中の様子見て もしそれっぽい人が居たら離れて座るってもんだな」


「お待ちのお客様どうぞ~」

開演5分前になって やっとこさウチの順番が回ってきた

「あっ はいはい “岳” 大人ニ枚お願いしまーす」

「14時開演の空いているお席は こちらだけとなっておりますが」

「えっ・・・全席指定・・・スゴッ!」



行ってきました映画『岳』。石塚真一の人気マンガを、まさしく今がシュンの小栗旬と長澤まさみの共演で、ご当地信州北アルプスの山々を中心に、松本、大町、白馬などをロケ地として制作されたこの春注目の作品。

今をときめく若手人気俳優の共演、きっと観客も若いカップルなんかが多いだろうと館内の袖からそれとなく周囲を見回してみたが、冒頭カミさんのテニス仲間の悲話を彷彿とさせる、浅黒い顔のいかにも足腰に自信のありそうな年輩の方が多いのにびっくり。これはこちらも心して鑑賞せねばならんかなと、やや緊張の面持ちで指定された席に腰をかけた。

正直私自身は小学生のときの美ヶ原登山と、中学生のときの燕岳登山くらいしか山登りの経験はなく、おまけに原作のマンガを手にしたこともないので、登山の知識もなければ、日本の屋根と言われる北アルプスの山々も、恥ずかしながら名前は聞いたことあるけれど、どれがその山なのかは分からないという、この地方には割とよく居るタイプの素人である。

ただその素人感覚が功奏し、オープニングからいきなり画面狭しと飛び込んで来る冬の穂高連峰の息を飲むようなド迫力映像に、私もカミサンもサブいぼを立てながら感動し、その後もスクリーンに次々と映し出されるアルプスの絶景と、その雄大且つ過酷な頂きで、スタントを一切使わず体当たり演技を魅せる小栗旬の役者魂に、私ら的にはかなりの興奮と満足を味あわせてもらったのである。

幸いこの日は、ここが映画鑑賞をする場所であることをわきまえた方々ばかりだったようで、周囲を無視して蘊蓄を語るような輩も現れず、私らもどっぷり映画に集中できたのだが、確かにプロの登山家から見れば、ストーリーの所々に多少現実離れしたシーンがあるかなと思い入るところはあった。

しかし、そこはマンガの映画化ということで目をつぶってもらうとして、私としては若干翔んだストーリー云々を語るよりも、とにかくアルプス連峰の度肝を抜く素晴らしい映像を、是非とも劇場に足を運んでご覧になることをお薦めする。中には「そのうちDVDか映画番組で観れるから」とお考えになる方もいるだろうが、この映画に関しては絶対に劇場のスクリーンで観るべきである。TVの画面ではこの映画の魅力が半減すること間違いなしと断言できる。


北アルプスの絶景だけでなく、他にも私にとっては嬉しい場面がいくつもあった。

松本北東部の三才山峠を水源として市の中心部を潜り抜けるように流れる女鳥羽川(メトバガワ)。その川の対岸に位置する縄手通りと蔵の町中町通りを結ぶ幸橋(サイワイバシ)と中の橋(ナカノバシ)を、小栗旬演じる島崎三歩が道に迷って走り回るシーン・・・
ここは私が子どもの頃、魚取りなどをして友達と散々川遊びをしていた懐かしい場所であり、以前紹介した私が若い頃とてもお世話になった民芸スナック(2009/04「恩返し」)というのも、この中の橋の袂に店を構えている。
 
さらに日本百名山の一つでもある美ヶ原を水源とする一級河川薄川(ススキガワ)。その川にかかる見晴橋(ミハラシバシ)で、怪我をした長澤まさみ演じる椎名久美が、見舞いに来た佐々木蔵之介演じる長野県警山岳救助隊隊長に励まされるシーン・・・
この見晴橋は、美ヶ原と北アルプスを東西双方向に一望できる場所として、映画やTVのロケによく使われるスポットでもあるが、こちらも以前紹介した私ら夫婦の母校、松商学園(2010/07「奇跡の裏付け」)の校庭から堤防道路に出たすぐ先にある、人と自転車専用の、学生たちにとってなくてはならない橋である。


そんな映画『岳』を松本市は今年2月「松本CINEMA」の第1号に認定した。松本シネマとは、松本市を舞台にロケを行い製作される映画で、市の観光振興やPRに寄与する作品に贈られる称号であるという。

現在松本市では、未だ閉塞感漂う景気回復の起爆剤として観光振興を掲げており、国宝松本城や美しい自然環境をアピールポイントとして、映画やTV番組などのロケ誘致に力を入れている。

実は最近、私がやたらと映画やTVドラマの話題をコラムに載せて“信州ブレイク”のテンションを提起しているのも、微力ながらこの市政策の一助になればと思ってのことである。

それは、この信州に住む私らにとって当然に他人ごとではないからだ。

当事務所にも宿泊業や飲食サービス業など、観光と密接に関わる事業を営んでいる顧客が何件もある。不況の煽りをまともに受けるこの業界は、此度の大震災の影響により更なる打撃を被り、以前にも増して厳しい経営環境を強いられている。

そんな皆さんのためにも、信州の知られざる素晴らしさを全国に向けて発信してくれるメディアの力をきっかけに、全国各地から一人でも多くの人が当地を訪れ、観光振興を起点とした地域全体の活性化が実現することを、私は切に願っている。



「しかし 日本もスケールの大きな映画撮るようになったよな」

「うん 最近洋画より邦画の方が 面白いもんね」

「ん?・・・ホウガのホウガって・・・ウメェこと言うじゃねぇかこのヤロー! 」

「・・・あんたのスケールは 相変わらず大きくならないのね」

「・・・」