2011年10月30日

Thank you 山中湖!

「うわっー!! これで富士山見えたらヤバイよねぇ」

富士の裾野に悠々と広がる湖の防護柵にまたがり、今にも身を投げ出さんばかりに長男が叫ぶ

「二日間とも好い天気なのに一度も拝めないって・・・ 何とかならんかなぁ」

湖越しにその雄大な姿を一望できる絶景スポットに車を停め、大迫力で迫るマウント富士を満喫するはずなのに、中腹から頂上までのその空間だけが雲に覆われてしまった残念な姿の日本一を恨めしそうに眺めながら私も呼応する。


「風が強いからもう少し待ってれば晴れるかも・・・」
「もう~ ホントあの雲どっか行ってくれぇ~」

厳しめな願いと知りながらも最後の神頼みをカミさんと娘が口々に呟くと、まったくその通りと言わんばかりに長男の彼女が傍らで何度も大きく頷いた。

全員が同方向を向いたまま、感動の大パノラマが眼前に広がることを期待して、湖上を吹き抜ける少し強めの風に暫し身を任せていたのだが・・・

「・・・帰りのバスに間に合わなくなっちゃうな 残念だけどそろそろ行こうか」

一泊二日の家族旅行 いつの時代も楽しい時間はあっという間に過ぎていく



行楽の秋真っ只中の今月連休、本当に久々の家族旅行に赴いた。

旅行といってもすぐお隣、山梨県は富士五湖の一つ、山中湖畔の小さなドッグペンションを目指しての『安・近・短』お手軽コースの旅である。



しかし、さすがに家族全員そろってとなると、子どもたちが小学生だった頃から十数年ぶりとなる。しかも今回は息子たちの彼女と、もう一人の主役、我が家のアイドル、トイプーの「ぷー」を連れ立っての賑やかなイベントとなった。


ご存じの通り、山中湖は富士五湖の中で最大の広さを持ち、何と言っても日本一の富士山を最も近くで眺めることができる湖として有名だ。標高は千メートル近くあり、当地信州の軽井沢や菅平などと肩を並べる風光明媚な避暑地としてもよく知られている。

ただ今回カミさんが目的地をその山中湖に選んだのは、ドッグペンションやらドッグカフェといった類のお店が数多くあり、ペット同伴で旅行ができる観光地の人気スポットだからということだった。

行ってみて驚いた。そういった店が確かに多いことも「こりゃすごい」の世界だが、湖畔の散策路や小公園にはワンちゃん連れの人々がここかしこに溢れ、湖畔道路沿いに点在するドッグランの入り口には、県外ナンバーの車が行列を作っている。

私はこの地に滞在するのは初めてだが、“観光地”の魅力というのは、その地にあった個性をブランド化することなんだなぁと、つくづく感じさせられる光景であった。


さてさて連休初日の正午、山中湖畔中心街に位置する旭ヶ丘バスターミナルに現地集合というところから我が家の珍道中は始まった。

私ら夫婦と愛犬ぷーは、中央道を休み休みドライブしながら11時ちょっと過ぎに現地に到着。山中湖畔の散策路に下りて、景色を眺めながらゆっくり散歩などしていると、半時間ほどのち、次男と彼女が年代ものの愛車キューブをうならせながら到着し無事合流。

新宿発の山中湖直通高速バスに乗った長男と彼女と娘の東京組は、予想はしていたが連休の渋滞に巻き込まれ、長男から「1時間位遅れそう ゴメン」とのメールが入る。まあまあ彼らに罪はないが、チョイスした発車時間は確かにちょっと甘かったか。

一方時間が空いたカミさんは、バスターミナル前の道路を挟んで立つ「梅宮辰夫の漬物工場」なる看板を見つけ、次男の彼女を連れて「ちょっと冷やかしに」と意気揚々向かったはいいが、店を間違えて隣の怪しい不動産屋に足を踏み入れたらしく、強面のお兄さんに逆に冷やかされたなどと言って慌てて逃げ帰ってきた。
何をどうしたら漬物屋と不動産屋を間違えるのか・・・ 流石というほかない。

はたまた愛犬ぷーと戯れていた次男は、兄貴たちの到着時間を見計らってターミナルに戻ろうとした矢先、車のキーがないことに気付いて大騒ぎ。バッグやポケットを何度ひっくり返してみても、心当たりを駆けずり回って探しても出てこない。すっかり血の気の引いた顔にあぶら汗を浮かべる次男に向かって彼女が一言 
 「車に付けっ放しとか・・・」  「?!」 

猛ダッシュでターミナル前の駐車場に停めた愛車の横に辿り着いた次男は、私らの方にゆっくり顔を向けると、運転席のドアの鍵穴にささったまま誰にも身を任せなかった律儀なキーを抜いて、気色の悪い笑顔を浮かべながら罰悪そうにかざして見せた。

のっけからそんな笑うしかないハプニングをあちこちで巻き起こしていた最中、やっとこさ新宿発の高速バスが到着して東京組三人が山中湖に降り立った。

再会の挨拶もほどほどに、2台の車に分乗し、ナビを装着した次男の車を先導役に先ずはその日お世話になるペンションに向かった。

ところが次男がナビに何の情報を入れたのか知らないが、行き着いたのは行列のできる湖畔のドッグラン・・・? 苦笑する私と、窓越しに再び気色の悪い笑顔を浮かべる次男の2台はUターンして引き返し、やっと道沿いに出ていたペンションの小さな看板を見つけ、立派な別荘が点在するなだらかな坂道へと左折した。

山間の登りの一本道を今度は自信ありげに走る年代もののキューブの後を追走すると、坂道の途中をスッと右に折れ、とある建物の庭に侵入。しかしそこは一般の方の別荘で、目的のペンションはもう一つ上を右に折れたところに門を構えていた。

何とか目的地の駐車場に到着した次男は、車から降りると開口一番「俺はナビの通りに走ってきただけだから!」と、上ずった声で誰にともなく強がりを言ってみせたが、「ナビの問題じゃなくて使い方の問題だろ」と私が穏やかにたしなめると、またしてもあの気色の悪い笑顔を浮かべ、何事もなかったように荷物を運んで行くのだった。


ペンションのチェックインを済ませ、急いで予約していた湖畔のバーベキューハウスに行くと、すでに午後2時を過ぎた広い店内には、予約なんてまったく必要なかったと確信させる二組ほどのお客しかいなかった。

私らはその閑散とした店内を通り抜け、山中湖を見渡せる屋根付きのテラス席に陣取り、早速生ビールで乾杯、やっと旅行に来たという雰囲気の中で一息ついた。それから黒毛和牛とジンギスカンのバーベキューセットを四人前ずつ所望して遅い昼食・・・否、ちょっと早い宴会が始まった。

よく晴れた午後だというのに、さすが避暑地としても名高い山中湖の空気は肌寒ささえ感じるほどだったが、皆でテーブルを囲み肉や野菜を焼きながら、ついさきほどの新着ハプニングなどを面白おかしく話していると、そんな周囲の冷気も吹き飛ばすような大きな笑い声が絶え間なく響き、心温まる楽しい時間が流れて行った。

実はこの日、娘と兄貴たち二人の彼女とは共に初対面だったので、変に遠慮したり、気兼ねしたりしなければいいが、などと親バカな心配も正直少しはあったのだが、すぐにそれはまったく余計な取り越し苦労であることが分かった。

兄貴しかいなかった娘にとってはお姉さんを一度に二人も持ったようなもので、同輩の友達とも学生時代の先輩なんかともまた違った立場で付き合える存在になるだろうし、何はともあれ兄貴たちが自分で決めて長く付き合っている彼女なのだから、会う前から素敵な人に違いないと思っていたのだろう。

おまけに誰に似たのか?兄妹の中で間違いなく娘が一番酒が強くて好きなので、下戸の兄貴二人はそっちのけで、この私が酒豪と認める鹿児島娘の長男の彼女とはすっかり意気投合して何度も杯を酌み交わし、酒はほとんど飲めないが、いつもあふれる笑顔で後頭部の辺りからハイトーンボイスを発するやや天然系の次男の彼女とも、年頃のガールズトークで大いに盛り上がっていたようだ。

今度は娘の彼氏も一緒になんて話も出ていたが、当然近い将来そういう日も来るだろう。ただ、娘の彼の場合は、父親である私の前に二人の兄貴の高いハードルをクリアしなければならんので、可哀想だがそれなりに覚悟してもらう必要がありそうだ。何しろ兄貴たちの妹の彼氏に対する評価はオヤジより相当シビアできつい。

だから逆に兄貴二人が妹の彼氏として認めた男だったら、私は何も言わずに認めようと思っている。カミさんには「な~に言って 無理無理~」などと茶かされるが、それだけ私が息子たちを信頼しているということである・・・な~んて言っても最終的には本人同士の問題なので、娘の目と感性を信じてこちらは応援するしかなさそうだ。


子どもが小さい頃は毎年のようにあちこちに出かけ、親子の絆みたいなものを確かめながら年を重ねてきた。それぞれが成長し、思春期の頃になると、子どもたちは一旦親兄妹とは距離を置き、自分の世界を見つけようとあちこち道草をしながらもがいて生きるようになる。そして、ある意味そんな充実した時期を過ごしてきちんと成長すると、今度は素敵な仲間を連れて戻ってくる。

世の中には、息子の彼女となんか会いたくもないという母親や、娘がどんな男を連れて来ても絶対受け付けないという父親が結構多いと聞くが、家庭の一番の楽しみは、魅力ある家族が徐々に増え、その分新しい幸せ感を与えてもらえることではないかと私は思う。

もちろん人間の命は永遠ではないので、家族がただ増え続けるわけではない。新しい出逢いもあれば辛い別れがあるのも事実だ。しかしそこに限りがあるからこそ今この一時を無駄にせず、互いに深い繋がりを築いておきたいものである。


旅行を終え 帰宅した夜 長男からメールが入った

「昨日今日とありがとうございました! ものすごく楽しかったー!
 またこういう機会を持って みんなで楽しい思い出たくさん作りたいね
 いろいろごちそうになりました!」

遊びに連れて行ってもらった息子がオヤジに礼を言う歳になった
大人としてしっかり成長しているのが嬉しい

ただ富士山が一度も見れなかったのがたった一つ心残り
だから来年このメンバーで再び訪れることにしよう
新しい仲間がまた一人増えているかもしれないが・・・

楽しいひとときを Thank you 山中湖!